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そこは、都内でもエグゼクティブな層の集まることで知られたスポーツジムで、
起業家や一流商社の管理職クラス、
はたまた肉体派で知られたタレントなどという顔触れが、
会員として出入りしてもいて。
「此処に来てるってんですか?」
「そお。」
だってカードからの信号は確かに此処から発してるものと、
そりゃあ強気で応じた相棒であり。
「知恵を絞ったんだから、
さりげなくってまずは気がつかないだろう発信システム。」
仰々しいものじゃあ、
例えば金属探知機なんかに引っ掛かってしまうけど、
ケミカル式の微細な信号しか出てないその上、
こっちから呼び出しの電波を撒かないと反応は出ない最新型。
「何たって三木財閥が相手ですもの、抜かりはないってね。」
それに、こればっかは
三木家に張り付いてたって判るもんじゃあないし、
当のお嬢様だって、
女学園から戻っても、
バレエ教室だの親御のホテルだのへ頻繁にお出掛けで。
その全部を見張ったところで、どこで誰へチョコを渡すかは、
姿が見えるほどの至近に張り付いてでもいないと、
結句 判りはしないだろう。
「そこで。居た場所、居た場所へ微かずつの痕跡を残す、
此処までおいでくんを仕掛けたって訳よ。」
それも出来るだけ自然な様子を装っての入れ替えだったし、
怪しいものとしてあのカードが見つかっても、
そこに残ってるのは、あたしの指紋や筆跡じゃあないし、と。
そんな細工が今まさに成就しようとして居ること、
興奮気味に語る女史だったのへ、
はいはいと半ばいなすように相槌打って、
今は無人のロッカールーム、
こっそりと忍び入ってる身の二人連れが、
擂粉木みたいな装置をロッカーの一つ一つへかざしておいで。
自分たちが仕込んだ“目印”のようなものを捜すため。
それを持たせたお嬢様からブツが離れたのが、
さりげなく尾行し続けながら、
擦れ違いを装ったりして不定期に行っていた、
ICタグへのセンサー照射にて確認されたため。
ここからが本番だとの遠隔操作で、
一定間隔の間をおいて
特殊なセンサーカメラにだけキラチカと痕跡が残る
ナノ物質を撒くよな仕掛けを作動させ、
どこの誰に渡されたものか、頑張って追跡して来ての今であり。
さあさ、どこへ運ばれたのかなと、
最後の詰めへ取り掛かっていたのだが。
「……え?」
その、特殊警棒にも似ている装置が、不意にぶるるっと震えだし、
それがひどくなっての女性の手では持て余す暴れようを示してから、
あっと驚くその手からとうとう逃げ出しての床へと落ちた。
ガツンという衝撃音は確かに大きかったが、
そのくらいでそこまで壊れるとは信じがたいほど、
部分的に粉砕された装置であり。
え?と、即座には信じがたいという目で見下ろしておれば、
「此処までおいでくん、は良かったですわね。」
「そうですか? あんまりセンスがいいとは思えませんが。」
連れのお二人のいいようへと引き続き、
「○○大学の工学部には知り合いがいる。」
大学院の神田講師殿にカマをかけたら、
あっさり吐いたぞ、そのややこしくて有害で中途半端な研究のこと、と。
踏ん反り返った金髪のお嬢様だったのへ、
「あ…あんたは。」
怪しい侵入者のお二人、
全身からいやな汗を吹き出させつつ、
その場へへなへなと斃れ落ちたのでありました。
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*一応ここまで書きましたので、大慌てでのUPです。
聖バレンタインデー当日までに鳧がつくのか、
そして本命へのチョコは渡せる彼女らなのでしょうか?
試験はどうしたと
つや消しなことを聞く保護者が何人いるか、賭けませんか?(おいおい)

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